汚れたままの安全靴は
それから何日も何日も玄関に放置されることになった。
なぜなら
父が突然仕事に行かなくなったからだ。
原因は母にもわからなかったようだ。
そして父は
その日を境に、外出することもなく
来る日も来る日も
昼夜を問わず
グデングデンに酔っ払い
家中をタバコと酒の匂いで充満させていった。
私たち家族は
連日連夜明け方まで…と言うか
父が泥酔して寝入るまで
居間に集合させられ
暴言を浴びせられる羽目になる。
かなり酔っ払ってるので
話の辻褄は合わないわ
呂律が回ってないせいで、何を言ってるのかわからないわで
その時間の無駄なことと言ったらありゃしない。
でも「何言ってんの~?」なんて顔をしようものなら
父の暴言は勢い付くので
「悲しい顔」を作り
「唇を噛む」という表情が
最も早く
暴言を終わらせるということに
気付いた。
でもたまに
事務的にやってしまい
その作戦が通用しないこともあった。(チッ!)
そして、一睡も出来ない日でも
学校に行かなきゃ!という義務を盾にし
怒鳴り声を背中に浴びながら
逃げるように登校した。
その頃の私にとって
学校は唯一の避難場所だった。
学校に居れば
友達と馬鹿笑いができ
家の事を忘れることができた。
だけど時々
学校に居ても
ハラハラすることがあった。
トラックがバックする時の
あの「ピーピー」という甲高い音だ。
あれを校内で聞くと青ざめていくのが
自分でもわかった。
なぜなら、父のトラックの音に思えて
聞くだけで震え上がるのだ。
「朝の私の態度が気に入らなくて
酔ったままトラックを運転し
学校に押し掛けたんじゃ…」
と授業中にもかかわらず
動揺する私。
酔った父と校内で鉢合わせしないよう
教室移動の時なんか
左右を素早く確認し、早足で次の教室へ移動することになる。
それに付き合わされる友達は理由もわからずに迷惑だったことだろう、笑
でも実際
父が学校に押し掛けてくることはなかった。
私は学校が終わる時間が
一番イヤだった。
毎日一緒にいる友達に
「キノコってさぁ。
さっきまで笑い転げてたかと思うと
帰る時には急に黙り込むよね。。家で何かあった?」
と、心配して聞かれることがあった。
『父親が酒乱で家に帰るのが憂鬱』だなんて
当時の私は言えなかった。
言ったら同情されて
もう一緒に馬鹿笑いができなくなってしまう気がしたのだ。
命日が近づくこの時期になると
一番酷かったこの時期のことを思い出す。
そうそう。
暴言は酷かったが
家族に手を挙げたことは一度も無かったので
正確には「酒乱」とは言わないのかもしれない。
ソフト酒乱ってとこかしら。
【酒乱とは…酒によって暴れること。OxfordLanguagesの定義より】
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